Aさんは、幼いころに両親が離婚し、母親に引き取られて今まで暮らしてきました。
父親とは会ったことがなく、存在自体もほぼ忘れていたその矢先、とあるアパートの大家さんから、Aさん宛に1通の手紙が届きました。
手紙の内容は、
①Aさんの父親と思われる方が先日亡くなった
②家賃の滞納が4ヶ月分あるので支払ってほしい
③部屋の家財道具などの処分を早急にお願いしたい
④まずは連絡をいただきたい
とのことでした。
父親と離れて暮らすようになってから数十年が経ち、今さら父親のことで関わりたくない気持ちがあり相続放棄をするつもりでした。
しかし、大家さんからの再三の申し出もあり、迷惑を掛けることはできないという思いから、結局、部屋の家財道具などを処分し、大家さんに明け渡しました。
Aさんは、「財産を勝手に処分してしまって、相続放棄ができなくなるのでは?」と心配されていました。
確かに、民法では、相続財産の一部もしくは全部を処分した場合、単純相続したとみなされてしまいます。
ところが、Aさんの場合、家庭裁判所で相続放棄の申請が無事受理されました。
ポイントは2つ。
①処分した相続財産が価値のある物なのか、そうでないのか。もっと分かりやすくいうと、お金に換金できる物であったかどうか、ということです。つまり、価値のない物を処分したとしても単純相続とはみなされないということです。
例えば、父親が使っていたお茶碗、ボールペン、Tシャツなどは、おそらくお金に換金できないでしょう。
また、家財道具にしても、有名なブランド製であれば別ですが、購入してから何十年も使用したものは逆に引き取り料がかかったりします。
②4ヶ月分の滞納金、つまり負債をAさんが支払いましたが、あくまでAさんの固有財産から、個人的に支払いをしたので、単純相続したとはみなされませんでした。
いずれにしても、財産を処分する場合は注意が必要です。