相続相談事例集:付言事項があったからこそ

長期入院をしているBさんから、「長男は、家を出て行ったきり親の面倒を見ることもなく、連絡すらろくにせず、金銭に困ったときだけ頼ってくる。遺言を作りたいのだが、どうすればいいか」という相談を受けました。

このような場合、Bさんが請求すれば、「推定相続人の廃除」(※)という方法で、家庭裁判所が審判によって、その推定相続人の相続権を失わせるということも可能ですが、Bさんは「それをしても、後々兄弟がもめることになるのであれば、絶対に避けたい」という強い意思をお持ちでした。

そして、公証人にBさんの病院に出張してもらい、「公正証書遺言」を作成することになりました。内容は、「次男にすべて」というものでしたが、Bさんの一番強い願いである「兄弟は助け合って、いつまでも仲良く暮らしてほしい」という付言事項をつけました。

その後、ほどなくしてBさんは亡くなりました。
葬儀に出席した長男が、「今回の相続できっちり財産を半分もらうから」と言いましたが、次男がBさんの作った公正証書遺言を見せました。

すると、長男はしばらく遺言書を眺めた後、「わかった。それなら仕方ない。それが親父の思いならそのとおり相続していい」と言って帰っていきました。
その後、兄弟が争うことなく、Bさんの遺言どおりに相続が行われました。

法律的なことだけでなく、付言事項を書くことにより、「兄弟仲良く過ごしてほしい」という、Bさんの願いが、長男にも充分に伝わったのだと思います。
 
※「推定相続人の廃除」・ ・ ・被相続人対して虐待、重大な侮辱、その他著しい非行をした場合、被相続人の意思に基づいて、その推定相続人から相続資格を奪うという制度。生前に本人が家裁に申請するか、遺言に記載されたものを遺言執行者等が家裁に申請するかして、家裁が認めた場合に限る。

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遺言書の内容は、法的効力のある「法定遺言事項」(必須)と、法的効力のない「付言事項」(任意)に分かれます。

【付言事項に入れるといい内容】

1.家族への感謝の気持ちや願い(否定的な内容は避けた方がいい)
2.どのような考えで、遺言を作成したのか
3.財産以外のこと(葬儀方法、祭祀承継者の指定、臓器提供、献体の意思表示、遺品の処分方法等)について